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2004年05月 第8冊
井上ひさし 「十二人の手紙」

井上ひさし  「十二人の手紙」  中公文庫

数年前に、何かの雑誌で誰かが大絶賛していたので買っといたのが本書。
全編お手紙形式という特異な構成なので、こんにちまで敬遠してました。

そういえば、これ読んでなかったなぁ、という正直な反省のもと読み始めたんですけど、
こりゃ大絶賛の折り紙おらなきゃなんない程の大ケッサク。

私はメールが好きで、毎日数本の長文メールを認(したた)めているんですが、
考えてみれば此れは手紙。手紙形式の小説なんて、随分古臭いなんて思いましたが、
現代はメール(手紙)全盛なんですよね。

やはり、切手を使った手紙・葉書なので、配達時間差を使ったトリックなんかも
あるんですが、基本的には現代でも十二分に互換性のある短編の数々。
本作は全13短編より成り、12人の手紙と、エピローグから成ります。

特殊な短編小説としての第3編「赤い手」は、
読書好きな読者に是非ご覧になって欲しい一作。

なんと此の短編、公的文書のみから成り立っているんです。
出生届から始まって、転入届や欠席届などあらゆる届出書や証明書を
駆使して一人の人生を綴って生きます。
そして最後の起訴状、ここに出てくる被告人が他の短編の意外な伏線が張られている。

肝心の12短編は、あらゆる状況の男女を手紙を通して浮かび上がらせていくんですが、
最終章のエピローグ「人質」がこれまた旨すぎ!
今までの「この後の二人はどうなるのかなぁ」といった不安定で
寂しい終わり方をした結末を、意外カツさらりと織り込ませている。

人間の縁というものは不思議なもので、
どこでどうやって絡んでくるものか分かりませんし、
その絡ませ方が実に見事。

先日、この本があまりに面白いので他の著作を
買おうと探しに行ったのですが、少ししか井上氏の本が無い。
私が学生だった頃は、ずらりと書棚を沸かせていた人なのに、人気凋落なんでしょうか?
こりゃ古本屋で収集しますか、と新たな楽しみが増えた今日この頃です。






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