2004年12月 第62冊
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文藝春秋篇 「無名時代の私」 文春文庫
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まさしく我輩の事ではないか!と狂喜して買った一冊。
冗談はさておき、これは古本屋でも練り歩いて探し出して欲しいほどの良書。
別冊文藝春秋を中心に、足掛け3年、69人の有名・無名人が
5ページ前後を使って、若き日の無名の日々を語るというもの。
全てが小説家という訳でなく、詩人や学者・役者も混じっており、
いろんな人生が垣間見れる。
こうやって、無名な苦労時代を読むと、苦労は重ねた人ほど、
今の味が濃くなっている様な気がする。
天才型と言いましょうか、若くして二十歳そこそこで新人賞を採り、
あれよあれよというまに原稿依頼が殺到して...なんて人の
現在は(私にとっては)つまんない作家になっていらっしゃる。
売れない時代、もしくは目的が見つからない時期が永かった人ほど、
現在のその人の作品は面白いのも共通している。
また、五〜六十代まで無名だった人の多くは、確かに今も無名に彷徨っているのは哀しい。
三〜四十代で、なんとか立ち上がらねばモノには成り難いのが現実のようです。
本書登場で私の好きな人としては、白石一郎くらいしかいなかったが、
この書を読んで気に入った人もいる。
自らの中学時代のコンプレックスを吐露した山田智彦、直球文章の内田春菊、
社会派作家の暗いトンネル時代を知った佐木隆三、たった5ページの中にも
凝縮した文章を書いた高橋揆一郎、と新しい作家に興味が持てた。