2005年07月 第88冊
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村山由佳 『天使の卵』 集英社文庫
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これは猛烈に感動した。
正統派のコテコテの純愛純文学なのだが、衝撃的なラストや
丹念な心情の描出など、第六回小説すばる新人賞に相応しい作品。
純愛小説を存分に堪能したい人には、持って来いの逸品。
父親が精神を病んでいる美大志望の浪人生が、主人公。
満員電車(西武池袋線!)で運命的に出会った女性と、再び運命的に巡り合うなど、
偶然の偶然は恋愛小説にはつきモノだが、その不自然な構成も丁寧な状況描写で
じっくりと楽しめた。
前半は物語設定の描写を丹念にするだけにもどかしさがあるが、中盤からは
それまでの土台が生かされてきてストーリー・テンポの勢いがハラハラさせてくれて、
二百ページ余りの中篇をあっという間に読み切らせてくれる。
悲劇的なラスト、その最期の心象風景が見事だし、
ここを描くためにそれまでの全てがあったと思わせるような感動。
読んだ人は多いと思うが、読んでない人がいたら私は言いたい。
恋愛小説なんて...と思って未読の方(私でした)は、
是非、明日にでも読みはじめて欲しい。