2005年07月 第96冊
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池波正太郎 『鬼平犯科帖5』 文春文庫
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これほど盗賊を味わい深く描き出す作家はいないでしょう。
なんだか鬼平を読んでいると、「おつとめ稼業(泥棒の事)」も素敵に思えてくる。
本編も第5集となり、ますます鬼平の剣が光る。
現代では戸建住宅なんて、大体の間取りが決まっていて、
どこの家でも大方の想像がつく。
これはプレハブ住宅という、企画商品が大量生産されていることもあるし、
住宅工法上どこに台所・便所・リビングなどを配置すれば快適に暮らせるか
研究され尽くしているゆえでもあろう。
ところが江戸時代の、しかも商家ともなると、増設に増設を重ね、今では
全く見られない「離れ」や「蔵」なども擁していると、一軒一軒の間取りは
一向に異なってくる。
そこで、盗賊しようとする屋敷の「間取り図」が重要になってくる。
「深川・千鳥橋」では、そんな間取り図を永年作り続け、
盗賊集団に流してきた「間取りの万三」が主人公。
半年の命という余生を、好きな女と安穏と暮らすべく、万三は最後の間取り図を
盗賊に売ろうとするが...。
「お宿かわせみ」も「鬼平犯科帳」も一見交錯しない二つのエピソードが
終盤で終結してゆくパターンは似ている。
しかし「かわせみ」は前半は前半はなんてことないエピソードが描かれ、
それが犯人探しの核になって行く。
ところが「鬼平」では、堂々と冒頭から盗賊や悪人が描き出される。
どちらが面白いと思います?
一見、「かわせみ」の方が謎解きが楽しめるように感じますが、
結局、こいつらが犯人じゃぁねぇのか、という気持ちで読んでいってしまう。
ところが「鬼平」では、悪い奴等の悪事の進行が、
今か今かと鬼平が捕り物できるかどうかに、ワクワクさせられる。
しかもギリギリのところまで、どっちに転ぶか判らないように描かれていくのだ。
多くの「鬼平」ファンがいる事に、深く納得してしまう。