2005年08月 第97冊
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白石一文 『不自由な心』 角川文庫
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今年上半期読んだ作品の中で、最高に感動したのが本書。
歴史小説家として名高い「白石一郎」氏の長男という、
不純な好奇心で本書に手を出した。
「親っさんはいい物書きだったけど、あんさんはどやろなぁ?」
なんて高をくくって読み始めたんですが、
おっそろしいほどの強烈才能です。
5つの中短編からなる本書ですが、著者が仰るように最初から順に読んで行きます。
各編の関連性は無いんですが、全作共通しているのは「不倫」。
なんだぁ、「不倫小説」かぁ、渡辺淳一みたいなの?
いえいえ!全然!次元が違います!
そのどれもが、釘付けになるほどの面白さなんですが、
圧巻なのが後半三篇(ほとんどやないですか...)。
「夢の空」は死を目前にして初めて最も突き進まなければならない道を
見出す主人公。
その電話を受け取った女性が、TV報道で知る驚愕の結末。
「いやだー!」と絶叫するラストは凄まじい雪崩れ込むような結末です。
癌を知り、余命半年を宣告された男の末路を描く作品が、「水の年輪」。
お金を持っていないとここまでしたい放題な余生は送れませんが、
かつての愛人のもとを尋ねるシーンや、ビルから身を投げるラストは
全身鳥肌が立ちました。
ちょうどBGMにマタイ受難曲を聴いていたからでしょうか。
凄絶な感慨に浸りました。
そして最後がタイトルロールの「不自由な心」。
中盤までは、それほでもないなぁと思っていたのですが、
後半の主人公と妹婿の対決シーンから俄然ヒートアップします。
不幸な人は、周りの人にも不幸を求める。
不幸は不幸を周りにも押し付けようとする。
どの作品もそうですが、著者の思想や哲学がガンガン入っていて、
それでいて曲折に富んだストーリーにしっかりと食い込んでいて、
私をグイグイと引きずり込んでくれました。
白石一文をまだ読んでいない人、これは勿体無い!