2005年09月 第116冊
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サガン 『ブラームスはお好き』 新潮文庫
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クラシックが好きな人はおろか、ブラームスが好きな人でも、
この本を読んだ事がある人は意外にいまい。
かくいう私もブラームスは聴くんですが読んだ事はなかった。
なんとなくブラームスとは関係ない内容のような予感はしていたが、
思い切って読んでみるか!と読み始めた。
百七十余ページという短さも魅力。
さて、まずブラームスについてですが、これはほんのツマミとしてしか出てきません。
もう少しブラームスについて薀蓄を垂れるとか、ひょってして本物のブラームスが
チョイ役で出てきても面白そうだのに、当然本物が出る訳も無し。
だってフランス・パリ文学だもんね。
ブラームスがチョイ役で出てきたら笑えたろうに。
途中、若きイケメン・ボーイがブラームスのコンサートにヒロインを誘うのだけれど、
この時のブラームスの曲がなんだったか考えるのは楽しい。
(映画「さよならをもう一度」では、第三交響曲が使われているそうです)
流れ的にはヴァイオリン・コンチェルトと思うのだが、
これがピアノ・コンチェルトの、しかも第1番だったら、
さぞかし二人の恋は上手く行っただろうにと思う。
それだけ若者の求愛は第一Pコンのようで、第1楽章後半の繊細な美しさに似通っている。
この辺を聴きながら、このシーンを読むと素晴らしい相乗効果が得られますよ!
内容はと云うと、39歳のバツいち美女が、年上の愛人と激しい求愛攻撃の末
彼女を射止めたかに思わす25歳のイケメン・ボーイの間で揺り動く女心。
それでいて安直な昼メロに陥らず、パリを舞台にしっとりと描かれてゆきます。
ラストは意外で、そんなことになるんだったら!と思わないでも無いですが、
そういうもんだよね、とも思わせる人生のほろ苦さが旨く滲み出ています。
これが小説第4作目とは、さすがはサガンです。
訳は六十年代と古いですが、一ページ一ページを大切に味わえる佳い小説です。
映画化もされているそうで(イングリッド・バーグマン主演)、こちらも
観てみたいものです。