2005年11月 第132冊
-
安西篤子 『恋に散りぬ』 講談社文庫
-
私は安西篤子が好きです。
女性の視点から歴史時代小説を書いているのは、杉本苑子や平岩弓枝と
似ているが、堅苦しい武家社会の妻をテーマに、短編を数多く出している
点が良い。
テーマに面白みが無く、重苦しい傾向になりがちなながらも、凛とした
女性の美しさや武家社会のなんともいえない矛盾や不可解さがうまく
描けていて、何篇読んでも感心してしまう。
本書は「武家女夫録」「不義にあらず」に続く第3集であり、
前作2冊とも私は感心して読んだ。
今回も一編一編の題名に花木の名をつけている。
「蘇芳(すおう)」
「著莪(しゃが)」
「金雀児(えにしだ)」
「山梔子(くちなし)」
これらなどは、ひらがなで題名をつけたほうが趣きがあるんじゃないかと思ったが、
全作漢字で命名しているので、筆者の強いコダワリがあるのだろう。
大衆時代小説にありがちな、大団円に終る話は全8編のうち半分もなく、
多くは救われない現実的で厳しすぎる結末が用意されている。
始まりも盛り上がりも厳しい展開が続き、最後はこれでもかという結末に
ヒロインたちは突き進む。
しかし、その悲しい姿と題名の花木が不思議なほどマッチしていて、
えもいわれぬ薫りを嗅いでしまう。