2005年11月 第135冊
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白石文郎 『僕というベクトル』(上下) 光文社文庫
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悪い奴が主人公という小説はままあると思うけど、
悪いだけでなくイヤな奴でもある主人公って、少ないと思う。
結局こいつがやっている事って、最低なクズなんだけど、
ほんとに自己中心的で独善的な思考と行動が淡々と語られてゆく。
しかも上下千百ページを超える一大純文学。
しかし、なんです。
面白い。
この腐った野郎がどこへ落ちてゆくのか、次には何をしでかすのか
気になってしょうが無い。
周りの善意の人が彼の行動に引き釣られてゆき、それは逆にリアリティがある。
転職によって大手学習塾の講師をしている主人公は三十歳。
かなりルックスがいい様で、格好いい男のモノの見方ってこうなのか、と
変な事が判る。
女性をモノとしてしか見ておらず、塾の先生とは仮の姿で、
アウトローな生活が綴られてゆく。
ご存知白石一郎氏には、双子の男子がいまして、兄が白石一文、
弟がこの白石文郎。
三人揃って稀有な小説家に成り得たという、奇跡のような家族。
兄一文の小説を読んだ時は、完璧に氏の才能に感銘受けまくりだったが、
この弟文郎の才能も脱帽もの。
文郎氏の方が純文学性と退廃色が濃く、片方が気に入ればもう片方も
気にいると思う。
千百ページ余もあったが、終盤では小説が終ってゆくのが寂しく、
いつまでもこのムカツク主人公の話を読んでいたい、と感じてしまった。