2006年01月 第153冊
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藤沢周平 『春秋山伏記』 新潮文庫
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この本は中学生の頃に「読みたい」と思ったのに、今まで読み損なってきました。
と云いますのは、この本のブックカバーにあるあらすじのせい。
〜以下抜粋〜
年若い里山伏と村びとの織りなすユーモラスで
エロティックな人間模様のうちに...
この紹介文の「エロティックな人間模様」という箇所にどうも意識し過ぎてしまい、
中学生だった私は手が引けた。
今回ようやく当時の自分を懐かしみ読んでみたのですが、
なんのことはない、別に対してエロティックじゃない。
後家さんや妙齢の娘が出てくるので、どうしても若い山伏との関係が
絡まざるをえず、何もそれが話の中心では無いのです。
江戸時代の、山形県庄内地方に伝わる習俗を興味深く読ませる傑作で、
こういった小説は海音寺潮五郎の「二本の銀杏」以来かな。
ほのぼのした連作短編集なんですが、最後の「人攫い」だけは
ハード・サスペンス。
年に一度の秋祭り。
大事な娘が母を捜しに神社まで行ったきり帰って来ない。
入れ違いになった母の不安、帰って来ない娘への思い、捜しに探して
とうとう「人攫い」に遭ったに違い無いと核心に至る時の描写。
それまでがユーモラスな話が続いていただけに、平和な村のオモシロ話を
読んできただけに、こんな村でそんな酷いことが本当に起こっているのか?
と読者を翻弄させます。
藤沢周平が抜群にウマイ作家であることは今更私が熱く語ることでも
無いのですが、この最終話を読むと、全く感心します。
題名から想像できないような、読後感が味わえます。