2006年07月 第187冊
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池宮彰一郎 『受城異聞記』 文春文庫
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山岳小説とも云える表題作(受城は「じゅじょう」と読む)他、
全5編からなるご機嫌な歴史短編集。
郡上宝暦事件と聞いて皆さんはすぐに思い起こせますか?
美濃郡上八幡藩三万八千石の金森家が、農民一揆の結果、
お家取り潰しとなった百姓一揆モノによく出てくる舞台なのだが、
今回は少し趣向が凝らされていて、その藩の高山陣屋を
接収する加賀大聖寺藩側から描く。厳冬の豪雪降りしきる中、
大聖寺藩藩士達が多くの犠牲を払いながら高山陣屋を目指す。
どう転んでも後世の人々からは嘲られる福島正則の生涯を
追った「絶壁の将」。やはり弱いモノを見捨てた男には
どうにも共感できないが、多くの歴史作家が強調するように
豊家を専横している石田三成を廃せんがため、
秀吉子飼いの猛将たちは家康についてしまう。
このヘンは所詮、家康の高度すぎる政治心理戦に猛将たちが
負けたのだろうが、悔いても悔い切れぬ結末を迎える。
もしくは天下とは真の実力者が握るべきもので、その力が無い秀頼は
早々と政権を家康に禅譲し、大阪で大人しく時を待つべきだったのか。
家康が死に、秀頼が見事成人していれば、豊家にも逆転のチャンスは
山ほどあったはずだ。
初代茶屋四郎を描いた「おれも、おまえも」は珍しい作品。
茶屋四郎を主人公にした作品は初めて読んだが、
家康の臆病な心理を上手く描いている。
江戸初期、大名と旗本が逃げ込んできた窮鳥を巡って意地と意地で
泥沼へ踏み込んでゆく「割を食う」。池田家のそれは有名で、
知っている人には、またか、という内容。
最後に110ページ余も割いた「けだもの」は、つまらなかった。
同心の執念を描く捕り物だが、ここまでするのは少し芝居がかっている。
まぁ、最後の作品を別にすれば、すこぶる楽しめる一冊。