2006年07月 第193冊
-
乙川優三郎 『屋烏』 講談社文庫
-
1年以上も書棚にほっぽらかしといて、
読んだら慌てて乙川優三郎の本を買い集めた次第。
凝り過ぎたペンネームが胡散臭くて、永年読むのを敬遠していた。
しかしペンネームはともかく、これはいい作家だ、実に良い。
「禿松(かぶろまつ)」「屋烏(おくう)」「竹の春」
「病葉(わくらば)」「穴惑い」の中短編5編。
著者は山本周五郎が好きなそうだが、さもありなん、
抒情味があって、周五郎や周平を追いかける作家に成るだろう。
表題作「屋烏」は、早くに父母が亡くなり、
幼弟を盛り育てるうちに婚期を逸してしまった
武家娘の恋を描いたもの。
今では三十前後の女性はこの世の春とばかりに、人生を謳歌してますが、
当時は三十路なんて年増女などと云われてそりゃもうひどいったら無い。
しかしそこは物語、そんな女性にも
ふとしたきっかけがやってくるのです。
意外と人生なんてそんなものなのかも。
ふとしたきっかけなんて時々起こってるんだけど、
それが発展するかしないかの差みたいな。
トントン拍子でもないけれど、想いを信じて
それが実る話って美しい。
周五郎や藤沢周平を読み尽くした人、
乙川優三郎はもう、お読みですか?