2007年07月 第222冊
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永井泰宇 『39』 角川文庫
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永井泰宇氏は初めて読んで作家。
永井豪の実兄という先入観だけで、本書をドタバタっぽいものと想像して
読み初めてたので、驚いた。
ちなみに永井豪の漫画は好きで無い。
あの雑なタッチがどうにも好きくなれず、彼の作品群が
一時代を築いた事に、時代の違いを感じる。
それはさて置き、先入観を持って読み始めたが、これが驚きのサプライズ。
現在2007年でも十分問題として残っている刑法三十九条について
シリアスに迫った法廷モノだが、受け狙い?と思って読み始めたが、
飛んでもない秀作だ。
あるささやかな幸せを育む妊婦を持つ若夫婦が、残酷非道に殺害される。
犯人は意外と直ぐに捕まり、精神鑑定の結果、多重人格と診断される。
こういう場合、刑法三十九条が働き、罪人から病人と変わる。
罪人だろうが病人だろうが、してしまった罪には変わりが無いと
思うのだが、法律ではそうはいかない。
普通に考えることが、普通に通用しないこのギャップ。
少年法と併せて、デリケートな問題だが、私は罪は罪として
しっかり重く罰して欲しいと考えています。
もちろん冤罪という恐ろしい過ちが多くあったので、これが起こらないよ
うに多層的に審理を徹底することは重要ですが、どっからどう見ても
犯人が断定できるケース、犯人が精神的に問題があったとか、未成年であったとか、
そういった諸事情で全てが根底からひっくり返る現状は、おかしいと考えます。
本書ではまさにそこを突いてくる後半がハラハラドキドキで、
唸らせる展開と結末が待っています。
ナゼこのような犯罪を犯したのか、犯人の気持ちが痛く突き刺さってくる。
ネタバレになるので上手に説明できないんですが、この多重人格に違和感を
感じる鑑定士の雲を掴むような追求が読み応えがあります。
早速本書続編「フラッシュバック39」を早速購入。
すっかり永井泰宇氏を見直した次第です。