2007年08月 第226冊
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山本周五郎 『おさん』 新潮文庫
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人情モノで、周五郎の「おさん」と、正太郎の「おせん」が良いそうだ、
なんて読んだので、まずは周五郎の「おさん」を読んだ。
全十篇470ページ程の厚目の短編集で、その中でも「おさん」は
70ページ近い短編。
玉石混交なごった煮な短編集で、「おさん」より良い短編もあれば、
満州国で発行されていたという「ますらを」という雑誌に掲載された
「青竹」という仮名遣いが不思議な作品まで収めている。
評価の高い「おさん」は、わたし的には今ひとつ。
持って産まれた女の性(さが)、この性(さが)が強すぎるばっかりに、
最初の惚れて夫婦(めおと)になれた男に逃げられ、男から男へと
渡り歩いていく悲しい後半生。
悲しい話なんだろうし、悲しい女の性(さが)を鮮やかに描いて
いるんでしょうけど、それほど名作なんかなぁ?
こういうのって、「わからない」と言うと、
「君はまだまだ男と女がわかっていないんだよ」と
訳知り顔で言う奴がいるんだろうけど、
「悲しい性」なんて分からないまま死んで結構。
なんて強がってしまいます。
それより「その木戸を通って」という「不思議小説」なるものの方が
面白かった。
記憶喪失の乙女がやってきて、乙女の持つ独特な個性が周囲の人を
虜(とりこ)にし、乙女はやがて妻となり児もできる。
しかし「その木戸を通って...」と何かを思い出しかけてゆく。
最後は再び何かを思い出した乙女は、子供も捨てて、
その木戸を通って...。
世にも奇妙な物語の原点のような、最後の瞬間にゾォっとするお話。
「不思議小説」ってことで片付けていいのか?と思うラスト。
残された夫は?子供は?みんなどうなるの?
ええ!ここでこう終わるのかぁ?という遣り方が、なんとも言えない。