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2007年08月 第229冊
野坂昭如  『火垂るの墓』  新潮文庫

野坂昭如  『火垂るの墓』  新潮文庫

8月お盆と来れば、終戦記念。
テレビでしきりに特番やってて、すぐ感化された私。
何か戦争を見つめ直す機会を、と思い読み始めたのが本書。

ジブリ映画であまりにも有名になった表題作「火垂るの墓」の他、
「アメリカひじき」「焼土層」「死児を育てる」「ラ・クンパルシータ」
「プアボーイ」の短編6編で締めて233ページ。

しかし、中高生が短編だからと、夏休みの読書感想文で
採り上げると痛い目に合う。
「火垂るの墓」は30ページも満たないし、口語体なのだが、
とにかく読むのに骨が折れる。

読書家ならこれくらいで泣き言いうと恥ずかしいが、
文字がびっしり29ページ。
場面展開しても状況転換しても一行あけるこなく、とにかくびっしり。
この人の文体は句点が極端に少なく、昔はこれが普通だったのか。
例えばこんな感じ。

「たちまち蒸し芋芋の粉団子握り飯大福焼飯ぜんざい饅頭うどん天どん
ライスカレーから、ケーキ米麦砂糖てんぷら牛肉ミルク缶詰魚焼酎ウイス
キー梨夏みかん、ゴム長自転車チューブマッチ煙草地下足袋おしめカバー
軍隊毛布軍靴軍服半長靴、・・・(以下略)」

こんなとこだけ抜き出して並べたら、なんだか
詰まんなさそうな話になってしまうが、話はとてもイイ。
ただ文体が舐めてかかると大変ゼヨ、と言いたい。

著者は実際に戦争で妹を亡くしており、
これが物凄いトラウマとなっている。

妹思いの理想的な兄を描いた「火垂るの墓」があると思えば、
自分の飢餓を満たすこと最優先ゆえ妹を栄養失調の末死なせてしまう
「死児を育てる」があったり、彼の苦悩が作品に極端に
デフォルメされて昇華されている。


「火垂るの墓」は可哀想なんて程度でなく、最後の最期まで救いがない。

妹が死んだ後、兄の最期と云ったら、なんと悲惨なことか。
親兄弟なく天涯孤独、それでいて自活力持たぬ少年は駅前の浮浪者となり、
体力消耗、病にかかり、とこういった最悪な流れも多かったのだろう。

全6編全て傑作だが、どれもこれも実体験がいくらか混じっているようで、
窃盗の末少年院に入る話も実体験のようだ。
青少年期にこれだけの体験をするなんて、現代の我々には口が塞がらない
思いだが、更にそれを小説にまで高め、かつそれが優れている。

アニメ映画「火垂るの墓」を観て涙した人には申し訳ないが、
他5編の短編がお涙頂戴でないのに比肩している力作を考えると、
本書はキラ星が詰まった短編集だと言える。






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