2007年08月 第231冊
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筒井康隆 『短篇小説講義』 岩波新書
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こういう本があることを、ご存知だろうか。
1990年初版だから若い人は知らないかもしれないし、
私の時代になると「文学部唯野教授」を思い出す人もいるかもしれない。
ノリはそれに似ており、アカデミックでありながら知的好奇心がどんどん
満たされて、それでいて紹介本への好奇心が高まっていく。
あいかわらず筒井康隆はこういう本になると滅法強い。
紹介される短篇は全部で8篇。
2 ディケンズ 「ジョージ・シルヴァーマンの釈明」
3 ホフマン 「隅の窓」
4 アンブロウズ・ビアス「アウル・クリーク橋の一事件」
5 マーク・トウェイン 「頭突き羊の物語」
6 ゴーリキー 「二十六人の男と一人の少女」
7 トオマス・マン 「幻滅」
8 サマセット・モームの短篇小説観
10 ローソン 「爆弾犬」
1は短篇小説の現況であり、9は新たな短篇小説に向けてと題して
一旦締め括っている。
10のローソン「爆弾犬」がオマケという格好なのだが、
これがまた面白そうな本で、いつの日か必ず(古本屋で)
見つけ出して読んでやろう、と思わせる爆笑小説。
全編海外作品というのが鼻持ちならないが、真の読書人は
海外モノという格調を忠実に守っているところが、
筒井も老人だなぁと寂しさを感じる。
この世代の読書は、まずは海外の作品の方が
圧倒的に正統であり秀烈な作品が多かったせいもあろう。
さて、上記8篇の中で、一篇でも読んだ事のある人は大したもの。
ちょっとちょっと真打ちからハズした作品を筒井ならではの
解釈で採り上げているからだ。
「アウル・クリーク橋の一事件」なんて、真剣に探してみようかしら。