2007年10月 第238冊
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山田風太郎 『同日同刻』 文春文庫
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副題の「太平洋戦争開戦の一日と終戦の十五日」が示すとおりのドキュメンタリー。
多くの作家や政治家、庶民から軍人まで幅広い日記や記録物を集め、
時系列的に出来事を書き写し並べてゆく。
合い間に入る風太郎の注釈が冷静で、一つ一つの事実の羅列がこれほど
重く連っていく日々は、過去にも未来にもそうはないだろう。
風太郎と云えば伝奇小説だが、こういった使命感に駆られたような
作品には恐ろしい迄の能力が発揮される。
涙、ナミダ、で語り綴られる戦争悲話も感動しちまうが、
多くの人たちの記録物の羅列だけでこんなに感動させてしまうとは、
あの戦争とは一体なんだったのか。
前半は、「開戦初日」の真珠湾奇襲攻撃を中心に描く。
これは八十ページにも満たない短篇で、いかにこの開戦が極秘裏に奇襲し、
記録物が検閲されていたかを想像させる。
後半は終戦へ突入してゆく「最期の十五日間」という圧巻で、
これには深く深く感動する。
6日のヒロシマ、9日のナガサキを米軍からも一般市民からも
丹念に記録物を採集し、それぞれが全く運命に
こじつけられるかのように一捻りにされてゆく。
ああ、なんて人間は悲しいんだ。
その後の終戦へ傾いてゆく中での政府首脳部の激突も凄まじく、
陸軍を中心とした抗戦派の最期の最後まで抗い抜く姿は、
人が鬼になってしまったようで恐ろし過ぎる。
信念を矜持して徹底抗戦を叫んでいた者は腹かっさばいて自刃したが、
そのた多くの指揮官は敗戦後の処理こそ新しい使命と言って、
多くの先立った戦友(部下)たちの死を無駄にする。
余りにも多くの世間では知られていない戦争秘話が満載で、
これは凄い一冊。
ラストの大佛次郎の文章が切実で、こんな風に自分を責め続けた人が
多かったんだろうなぁ、最後の最後まで心打たれ続ける本だった。