2007年11月 第245冊
-
立原正秋 「たびびと」 文春文庫
-
かつて最も好きな作家を「立原正秋」と選んだ選者が、
「立原正秋のベスト1」として挙げたのが、本書。
古本屋で見つけたので、迷わず買っておいたのだが、このたびようやく
読書の運びとなりました。
173ページ。
五十前後の美術系著作家と、子をなしながら早々に離縁された
従順な女との不倫話。
先の無い愛の末路と、泥沼化を避けるべく著作家が選ぶ道と苦しみ。
全編は洗練された日本美学に統一され、要約すれば単なる不倫紀行なのに、
随分高尚に纏め上げたものだと、いつしか感心してしまう。
銀座で見る能「関寺小町」や、京都の「紫野大徳寺」を効果的に
借景として使い、著者の日本美学への憧れと傾倒が連綿と綴られる。
緑色の湿った文体で、この不倫カップルの行き着く果てはどうなるのかが、
ストーリー的には見モノ。
ただし最期はちょっと美しすぎるかな。
実際はどうにもならない泥沼の中、修羅と化した醜い女と男に幻滅して
終わるんだろうけど、立原先生の日本美学は当然淡く美しく散る。
最近は消えつつある作家だろうが、他の代表作も読んでみたいと
思わせられた。