2008年04月 第270冊
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山田風太郎 「地の果ての獄」(上下) ちくま文庫
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明治最初期の監獄の話。
北海道は樺戸、空知の二大監獄を舞台に、風太郎の明治モノが
イキイキと語られる。
明治時代は物語の宝庫なだけに、様々な登場人物が
嘘か誠か連累しており、小説として多いに楽しめた。
薩摩出身の青年有馬四郎助が看守として北海道・樺戸集治監に
赴任してくる所から物語はスタート。
彼は養子として有馬姓を名乗っているが、旧姓は益満。
益満休之助の末弟でった。
幕末モノを読んでいると、確かに益満休之助はちょっと出てくる。
しかし明治維新の大混乱とともに再出することはなく、どこかの知事か長官か、
西南戦争に従軍して戦死でもしたんだろうと思っていたが、
本書では彼の意外な「その後」が語られてゆく(フィクションだろうけど)。
ちなみに主人公有馬四郎助は実在の人物。
「愛の典獄」と敬愛され、そんな男の若き日々が活写されている。
北海道と言えば、札幌やクラーク博士、黒田清輝といった有名人が
クローズアップされがちだが、敢えて明治の裏面史を採り上げているのが
風太郎らしい。
ちくま文庫版では、この長編以外、「斬奸状は馬車に乗って」「東京南町奉行」
「首の座」「切腹禁止令」「おれは不知火」の5短篇が加わっている。
名作も駄作も混ぜこぜになっていて、上下9百ページながら楽しめた。