2008年06月 第277冊
-
牧秀彦 「剣豪 その流派と名刀」 光文社新書
-
最近の新書は百花繚乱、しかも面白いよね。
面白い題名が特に多いのが、この光文社新書。
ちょっと前なら、どこかの美術評論家か大学教授しか書かなかった題材
「剣豪」「剣術流派」「刀剣」が、時代小説家の剣術マニアが
書いちまっている。
剣術好きがひしひしと伝わってくるし、こだわりようも愛おしい。
かつ、系統的に網羅しようという欲張り振り。
これ一冊で、よく分からなかった剣術や刀剣の世界が垣間見えます。
江戸期の、剣術や必殺剣が出てくる小説はゴマンとあるが、
いったいどれがどうなっているのか良く分からなかった。
よくある書では、一刀斉系列の一刀流。
それに対して余りにも有名になった柳生。
ミーハーですが武蔵の二天一流と小次郎の巌流。
新選組が好きなら天然理心流だし、司馬が好きなら北辰一刀流か。
当然本書ではラクラクと解説されているが、すごいのはこれらは序の口。
居合にも流派が多く、林崎夢想流から始まって、伯耆流、田宮流、無楽流
・・・ずぅっと下れば警視庁流。
そんなのがあるの?!
実に50流派が詳しく面白く紹介される。
ここまでで160ページほどを費やし、後半は名刀編。
刀剣は「古刀」「新刀」「新々刀」と分けられるそうだ。
古刀は五か伝と呼ばれる作刀技術があるそうで、
相州伝、山城伝、大和伝、備前伝、美濃伝の五つ。
これらをベースに、脇モノと言われるそれ以外の独自の伝承が絡んだり、
複数の伝統を学んで新たな流派を打ち立てたり、まさに芸術の世界そのもの。
こういう知識のあるなしで刀剣を観ると、まったく違った感想が産まれるだろう。
刀剣には太刀と打ち刀(刀)があり、
更に脇差や短刀や槍、薙刀などもある。
刀には時代によって長さが様々で、時代に合わせて
長刀を寸詰めしたりもしている。
知らないことばかりで、しかも、面白い。
剣豪、時代小説が好きな人は、きっと面白い一冊だと思う。