2008年07月 第283冊
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山本博文 「徳川将軍家の結婚」 文春新書
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将軍だとか大名だと聞くと、さぞかし勇力があって才能があったから
出世したんだろうな、と思いがちだが、さほどそうでもない。
日本は古来より血の繋がりを重く見、血筋や家柄が才能より
遥かに高く貴ぶ傾向がある。
政略結婚なんぞまさにその典型だし、本書後半で現れる皇女降嫁は
その極まった特例と云えよう。
家康はその点、変わっていた。
後家や年増好みなかなり危ない嗜好があった。
権現がそんな型破りな女性関係だったから、徳川家の婚姻政策は
全く一貫していなかったのかもしれない。
そこがまた、時代の流れとともに、先例を重んじつつ、
大した先例が無いだけに場当たり的な婚姻政策で面白いのかもしれない。
徳川草創期は兎も角、落ち着いてきた時期から次第に
京都摂家や宮家を基本とした婚姻となって来る。
それはほぼ一貫した流れだが、中期以降、二度の島津家との婚姻と、
和宮降嫁で物語は最高潮に達し、天璋院と和宮が最後仲睦まじくなる挿話は
この一冊の大団円だ。
ちなみに天璋院とは、篤姫のことで、NHK大河ドラマにも
なっているので、御存知の方も多いだろう。
徳川初期は摂家や大臣家との婚姻は、まったくのお飾りで、
そんなお飾りのために遥々関東の果てまでやってきた京の姫君は不運だが、
時代を経るとともに将軍の正妻「御台様」の地位がどんどん上がってくる。
ただ、意図的なのか、意味があるのか、最後の将軍慶喜の妻に付いては
書かれていない。
将軍在位中は独身で、大政奉還後に結婚した?とかの理由で
書かれていないのかもしれないが、あの無様な徳川崩壊をもたらした元凶として、
将軍としてさへ認めていないのかもしれず、少し可笑しく思った。
著者は東大史料編纂所教授という凄い肩書きで、文章も少し硬いが
着眼点は立派なもの、なかなか良い。