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2008年08月 第287冊
藤沢周平  「ささやく河」  新潮文庫

藤沢周平  「ささやく河」  新潮文庫

彫師伊之助捕物覚えシリーズ第三弾(最終話)。
このシリーズは第1話が一番面白く、第2話は駄作。
そして本編第3話は秀作、といったところか。
さすがに第3話ともなってくると、「前作読まなくても愉しめるよ」
なんて嘘は言えないが、前2作を読んだ上で本編を読んだ方が、
主人公伊之助の境遇やしがらみまで味わえて尚よろしい。

元岡っ引きの伊之助は捕物にのめり込むうちに家庭をないがしろ。
捕物しか見えない夫から妻は離れてゆき、伊之助は一人になっている。
そんな経験から岡っ引きからは足を洗い、彫師職人としてちんまり生きる
のだが、彼の岡っ引きの腕を見込んで昔の仲間たちが相談にやってくる。
難事件を持ち込まれちゃぁ、昔の血が騒がないはずがない。

当時の岡っ引きは親分なんておだてられてもいたが、一つ間違えば街の
ダニみたいな存在で、上手く使う奴もいれば毛嫌いしていた人もいた。
そんな環境に甘んじる奴もいれば、コツコツ真面目に捕物に精を出す
岡っ引きもいた。

もちろん伊之助は後者だが、そんな状況を正面から論じるでなく、
淡々と岡っ引きの世界を描くことで読者には江戸の岡っ引き界が分かってくる。

本書は主人公と小料理屋の女性とのラブ・ストーリーも交えられていて、
シリーズが長期化すれば二人が結ばれたり危機が迫ったりしただろうが、
本編で終わってしまったようなので、結末は分からず。

本編は推理モノというよりは、読者が伊之助と一緒になって犯人を
じっくり追う、という構成。
彫師というサラリーマン稼業の傍ら、遅刻したり早退したりして
親方に怒られながら捜査を続ける。
そこまで好きなら岡っ引きに戻ればいいものを、
妻を失ったトラウマから逃れられず、
二足草鞋で事件を追うハードボイルド調。

このシリーズ、読むなら第1作「消えた女」だが、
第2作は飛ばしてでも本作「ささやく河」もお薦めしたい。
第2作がつまらな過ぎただけに、オゥッと喜ぶ秀作。






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