2008年09月 第296冊
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隆慶一郎 「柳生刺客状」 講談社文庫
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「柳生刺客状」「張りの吉原」「狼の目」「銚子湊慕情」「死出の雪」
からなる全5編190ページの短篇集。
うち「銚子湊慕情」は執筆中の死去により遺作となっており、
スケールのでかい話になりそうな予感がするも、
冒頭30ページで筆折れているのが無念。
全編面白く、バラエティに富んだ作品集。
表題作「柳生刺客状」は家康の暗殺と影武者を知った柳生宗矩を中心に、
柳生兵介(柳生石舟斎の孫、新次郎厳勝の子)の苦悩を絡めながら
新鮮なエピソードを盛り込んでいる。
柳生の悪役宗矩だけに絞らず、兵介の純粋な苦悩を絡めた点が新鮮で面白い。
「張りの吉原」は花魁の裏世界を描いた作品。
かなり変わった趣向なのは、大阪新町の太夫を引退した花扇が、
江戸吉原の花魁社会に登場させること。
大阪新町の太夫を絶頂期で落籍された花扇は、旦那の急死後、
新しい好奇心を押さえられず、天下一と謡われる花のお江戸は吉原で、
総角(あげまき)をサポートする番頭新造となる。
天性の場を華やがせる素質を活かして、吉原の太夫をサポートしながら、
吉原を垣間見ようという寸法だ。
しかし、ここで吉原の太夫とボディーガード役である首代の恋が
明るみに出て、吉原の壮絶さが滲み出る。
「狼の目」は、剣術修行からドロップアウトした男の成れの果てを描く。
「死出の雪」は、崇禅寺馬場での敵討ち。
非常にバラエティに富んだ設定、それでいて短くキリリと纏まっている。
これは良い。