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2008年11月 第302冊
白石一文  「僕のなかの壊れていない部分」  光文社文庫

白石一文  「僕のなかの壊れていない部分」  光文社文庫

私にとって、白石一文3冊目の本。
独特の文体と言われるが、まさしく新時代の純文学を代表するような高圧力な文章。
合わない人にとってはどうしようもないんじゃないか、と思いつつ。
私はひどく反発を感じながらもどんどん物語に吸い込まれていって、
作者の思う壺状態な読者の一人。

毎度ありえない脳味噌を持った人が主人公。
大手出版社の高所得編集者が主人公。
明示はされていないが、本郷界隈の国立大学出身と言えば東大しか思い至らず、
そこを卒業して、給与が良いという理由で大手出版社(文藝春秋だろうか?)
に入社し、忙しい毎日を送っている三十手前の主人公。

凄い美女でやさしくてキャリア・ウーマンと
京都小旅行に出掛けるところから話はスタート。

通常ならここらで読む気がなくなるんだが、主人公のイカレタ思考回路に
抵抗虚しく引き込まれてゆく。この主人公、北九州出身の極貧家庭に育ち、
後半で明かされる悲惨な体験により驚異的な記憶力を持つ。
嫌味なほど濫読した名文章を随所で諳んじてみせ、話をケムに撒く。

大学時代の家庭教師の教え子や、焼き鳥屋の自殺願望のある美青年に
自宅アパートを好き勝手に出入りさせたり、先述の美女を彼女にしながら
今までの女とも交際を続ける。ああでもない、こうでもない、と
悲惨な過去の記憶から開放されない主人公は恵まれた現実の幸福を享受できない。

そこらへんの彼の言い訳と言うか逡巡に呑み込まれてしまう私のような
読者もいれば、反発に反発を感じて怒り心頭になってしまう読者もいるようで、
ここら辺がこの本の醍醐味とも言えよう。

最終盤で焼き鳥屋の青年がしでかす大事件はちょっとやり過ぎで、
これさへ無ければリアリティは損なわれず、大オススメとなったんだけどな。
でもまぁ、私は好きです、白石一文。
弟の白石文郎はどうしてんのかなぁ、最近新刊が出て無いんですよね。






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