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2008年12月 第306冊
藤堂志津子  「熟れてゆく夏」   文春文庫

藤堂志津子  「熟れてゆく夏」   文春文庫

第100回直木賞(昭和63年下半期)受賞作品。
もう、かれこれ20年も前に受賞された作品になりますが、
純文学(ストーリーよりも頭の中での思考が総体を占めている)、
ドロドロした恋愛話のためか、古臭さは感じません。
「鳥、とんだ」(約五十ページ)、
「熟れてゆく夏」(約百ページ)、
「三月の兎」(三十ページ足らず)の三中短篇から構成された、
藤堂志津子入門には最適な文庫。

三作とも若い女性が主人公で、三人とも屈折した性格性癖。
純文学特有の、考えすぎるゆえに暗くなってゆく思考にちょっとゲンナリ。
どうしてそういう風に感じたり、考えてゆくのかなぁ。
そういった性格が呼び水となるのか、集まってくる男女も下らないヤツばかり。

純文学を純粋に楽しもう!と思って読んでいるので良かったですが、
「なんか面白い本無いかなぁ」と本書の薄さと直木賞に惹かれて
読み始める人には、ゲンナリでしょう。

「鳥、とんだ」は、不倫の末に生まれた女性が、結局自身も
不倫に破れ疲れ、奔放な母を憎みつつ実家に身を寄せる。
初めての男性は従兄弟という近親相姦で、その間に出来た児は堕胎している。

堕胎の代わりに拾って飼い始めた犬は皮膚病が悪化しており、
ラストではヒロインが公園で酔っ払っている隙に逃げて行ってしまう。
どうです、どうしようもなく暗いでしょう。
救いもヘチマも無い。
これぞ純文学、いやぁ或る意味清々しい。

「熟れてゆく夏」は、どうもわからない。
ヒロインがどうしてゴージャスなオバ様にココロ惹かれたり、
可哀想に思ったりすのか。
昔一緒に暮らした従姉妹から、おぞましい過去を赤裸々に綴られた
自費出版詩集を送りつけられ、まともな人生を歩かせないぞと
呪われている現状のヒロインの方が、よっぽど可哀想。
しかし最終ラストは意外性があり、今までのウジウジした展開を
ぶち壊してしまう言動が意表。

「三月の兎」が個人的には一番読み易かった。
学生時代、文芸部に所属していた男女が、卒業後数年も経っているのに、
未だにドロドロした男争奪戦を繰り広げ、挙句にはどっちを取るの?だの、
自殺未遂だの、3月は淫乱症が発症するだの、三十ページ足らずなのに
盛りだくさんなのに、興味深く読めてしまう。

終わり方がちょっと詰まらないし、淫乱症なんて非現実的で変な話だが、
腐れ縁の女を取るのか、今カノの私を取るのか、その辺の遣り取りは今も
昔も差して変わらず、男の発言と行動の微妙な変化が見事な表現で秀逸。

少し気に入ったので、著者の人気作「昔の恋人」(集英社文庫)を
早速購入しました。






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