2009年05月 第323冊
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波多野裕造 「物語アイルランドの歴史」 中公新書
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本文267ページ。
218ページ目でようやくイギリスから独立の目処が立った時は、
思わず目頭が熱くなった。
そう、アイルランドはイギリス本土の横にある島で、内乱に次ぐ内乱を重ね、
外圧に頼ってしまった事によってイギリスの介入、植民地化、併合に至り、
独立まで七百年を待たなければならなくなる。
想像してみよう。
もし欧州平泉を追われた義経が、捲土重来を期して大陸の勢力を
頼んでいたとしたら。中国やモンゴル、朝鮮などの属国もしくは
一部領土として何百年も経過する運命になっていたかもしれない。
アイルランドはその点、不運だった。
国土は英国本島より小さく、大陸にはフランス・ドイツが構え、
ヴァイキング(デンマークなど)なども度々侵略してきた。
決定的な軍事的天才、日本で云う信長秀吉家康とか、
清盛義経頼朝とか、尊氏正成といった戦士が登場しても、
日本のように「運」までも味方してくれなかった。
内乱は果てしなく続き、完全なる長期統一が遅れた。
その点、日本は天皇のもとで早々と国家は固まり、天皇という王家が
脈々と続くことによって外国からの侵略に一致団結できた。
様々な民族人種が移動して国家を形成している欧州は、
やはりそういった観点からは不安定だ。
イギリス、ドイツ、フランス、イタリーといった
列強国からみた欧州史は多いが、そうではない国家視点から見た
欧州史は非常に参考となり複眼的歴史観にも役立つ。
日本の幕末、大同小異、幕府だ朝廷だといった小異を捨て、
明治政府となってなかったら、アイルランド史は日本にとって
他人事でない歴史だっただろう。
著者は毎日新聞に45歳まで勤めたが、その後外務省入省、
アイルランド大使を務めた変り種。
ジャーナリストだったわけだが、文章はいささか硬い。
一冊で一国の全史を治める事に無理があるのは分かるが、
史実の詰め込みすぎで羅列になっている箇所が多く読みにくかった。
そうはいっても、こんな為になる本は新書ではそうそうなく、
なかなか良い読書になった。