2009年06月 第326冊
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檜山良昭 「ソ連本土決戦」 光文社文庫
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「日本本土決戦」「アメリカ本土決戦」と並ぶ、
著者渾身の本土決戦三部作の一作。
この文庫版でも初版が1989年だから、かれこれ20年前の作品。
それなのに構想やシミュレーションがちっとも陳腐化しておらず、
ある意味、完成版ともいえる出来。
太平洋戦争直前、日本はアメリカとの関係悪化修復を試みているが、
なかなか進展はしていない。そんな折り、ドイツがソ連に侵攻。
モスクワ目指してドイツ軍は三方面で北上してゆく。
そんな好機を満洲の関東軍は黙って見送っていられるのか?
「もし」、関東軍が謀略を用いて、暴発していたら・・・と云うのが本書。
いくらソ連がドイツから猛攻を受けていても、ソ連は大国。
ドイツの電撃作戦で開戦当初は押しに押されるが、
反撃体勢が次第に整っていく。逆にソ連極東方面軍と
辛うじて拮抗できる兵力で暴発せざるを得ない関東軍は、
侵攻当初から四苦八苦。
早々に計画の破綻が見始められる。
ドイツ撃退の感触が出始め、関東軍とも持久戦が展開されだす。
そう、季節は「冬」に入ってゆく。
夏用体勢で侵攻した日本軍はソ連の冬が来る前に、
第一次計画完了を前提に暴発しただけに、
それが不可能となった「冬」、暗澹たる未来が見え出す。
そんな終盤で本書は終わる。
アメリカのソ連協力や外交も綿密に描かれており、
想定されうる限りの「イフ」が描かれている。
「日本本土決戦」「アメリカ本土決戦」の後に書かれただけあって、
緻密さは前者を遥かに凌ぎ、シミュレーションが好きな人には
堪らない内容となっている。