2009年07月 第330冊
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檜山良昭 「黒船襲来」 ジョイ・ノベルス(実業之日本社)
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戦国時代や第2次世界大戦が、「もし」こうだったら、というifモノは多い。
しかし本書は実に珍しい設定、幕末の黒船襲来に「もし?」が起こっていたら!
ありそうでなかった設定だけに、考証や仮定が難しいところだが、
その辺も綿密かつ緻密な土台の上にストーリーは進んでゆく。
アメリカのペリー提督が浦賀沖にやって来て、
日本との通商を求めたのは誰もが知っている。
実際のアメリカは富を求めて世界を駆け巡っていた。
欧米列強各国は清(中国)の次の目標として、日本の開国を迫る。
黒船4隻で江戸湾でデモンストレーション。
しかしこの辺りから、日本の「if?」が始まる。
当時の首席老中(総理大臣)は阿部正弘。
若くして首席老中というエリート殿様だが、
周りの意見の最大限なだめつかして、
波風を立たせないよう結論に導く。
現在では、彼の政治手腕は再評価もされている。
当時も暗躍著しかった水戸斉昭が、いよいよ表舞台に伸し上がってくる
駆け引きや経緯は自然さがあるし、一歩間違えればこういった幕末も
十分ありえた、と思う流ればかり。
江戸湾でデモンストレーションする黒船4隻に、突撃斬り込んでしまう
過激派発生。生麦事件があったように、ペリーがあまりに日本を
挑発しすぎると十分ありえたであろうイベント発生。
旧型船2隻もやられたアメリカは態度を硬化、日本の王宮(江戸城)を
攻略して、外交交渉を有利に運ぼうとする。黒船の基地として伊豆下田の占領、
黒船による艦砲射撃、そして上陸、江戸進軍。
一度は彼らをどうにか押し返す幕府ですが、英米に仏まで加わって欧米は
再度襲来。そこへロシアが日本の軍事要請を受け、英米と激突。
欧米列強が日本を舞台にやりたい放題。
いやいや、一歩も二歩も間違えば、十二分にありえたと思います。
最後の大どんでん返しは、史実と下田の黒船前線基地を
うまく絡み合わせて、胸がスカッとする結末。
予定調和で終わるのはしょうがないですが、
実に良く考えられたもう一つの幕末史。
古本屋で探してでも、読んでみる価値があります。