2009年08月 第341冊
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帚木蓬生 「臓器農場」 新潮文庫
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題名からご推察のとおり、臓器移植を主題とした医療サスペンス。
今から十年以上も前に出された、著者の代表作とも云える作品なので、
お読みの方も多いはず。
ただし、全610ページという極厚の文庫本実物を見て、
躊躇する人も多いのでは?
著者帚木蓬生は、「ははきぎ、ほうせい」と読む。
源氏物語にヒントを得たペンネームだそうで、
東大仏文科を出てTBS入社するも2年で退社。
九大医学部に入り直して、精神神経科の医師となった変り種。
東大時代はマルグリット・デュラスを研究したそうだが、
私だってしがない大学在学中はドミトリ・ショスタコーヴィチを
研究したものである。その後の進展は大いに違うが・・・。
六百ページを超える医療サスペンスとなると、何やら難しそうで気が重たいわ、
と思ったアナタ。
実は私もそう思いつつ本書を読み始めたクチ。
購入してから5年くらい経った今、ようやく読む気になれた。
しかし主人公は新米ナースで、このヒロインが一日一日、
私立病院でナースとして育ちつつ話は展開して行くので、ちっとも難しくない。
しかも六百ページにという余裕ある紙幅なので、端折った箇所が少しもなく、
いろんな事件事象が起こるがどれも丁寧に親切に語られる。
医療現場の諸問題や特異性、理想と現実、ちょっとした行事や
ナース同士の付き合い方など。
看護師のなろうとしている人にも、ある意味、お薦めかもしれない。
そんなこんなで新米ナースとして充実した日々を送るヒロインであるが、
少しづつ病院のキナ臭い秘密を嗅ぎ付けてしまう。
親友とも云える同僚ナースと頼りになる気になる医師
(こんなに良い先生が、どうして子供もいるのに離婚したのかが不思議だ)。
この3人で探偵ごっこが始まるが、事態は大き過ぎて深刻。
やがて彼らはヤバイ事態に巻き込まれ、新米ナース奮闘記にしては
哀し過ぎる展開へ。
六百ページは長すぎるという人もいるけれど、六百ページ掛けて
じっくり読んだって損は少しもなかった。読み易いしね。
また是非、ははきぎ作品を読みたい。