2009年09月 第347冊
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新津きよみ 「彼女たちの事情」 光文社文庫
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ミステリー&ホラーの短篇17篇。
70点くらいの作品がほとんどながら、どれも短いのですいすい読めます。
また中には後々までゾっと心に引っかかる後味の悪い作品も混じっており、
そういう意味ではホラーです。
その中で驚いたのがある作品のワンシーン。
昔良く知っていた場所がドンピシャで出てきたんです。
たくさんの小説を読んできましたが、こうまで情景描写が
ハッキリ思い出せる作品は初めて。
決してそれは東京駅構内とかレインボーブリッジみたいな
有名な場所じゃないんですよ。
この作者とどこかですれ違っていたのかもしれないと思うと、
少し不思議な気がした。
秀作なのは「歯と指」。
育児ノイローゼとキャリア・ウーマンから脱落してゆく恐れを持っている母親の話。
ぼんくらな息子の愚鈍さに絶えずイライラしている。
ある時、これ以上折檻していてはどうにかしてしまいそうな自分を
押し鎮めるために、息子を部屋に押し込めドアをピシャリと閉める。
その時、ドアの閉まる感触が、なんとも云い様のない、
ゴムをつぶしたような感触を母親は得る。
この辺の描き方が実に現実的で怖い。
ドアを閉めるとき、何かを挟んでしまう、ゴムみたいな柔らかくて
ちっちゃなものを。
大切な息子がドアに小さな指を伸ばしていたとしたら・・・。
「シンクロニシティ」も怖い。
人生って、ときどき物凄い偶然の重なりってありますよね。
久々に出合った女友達と、現在の境遇は何から何までほとんど同じ。
住んでいる街まで、駅の北口と南口という偶然の連続。
街でしこたま飲み重ね、終電後の彼女達はタクシーで同じ駅まで向かう。
その中で、過去の思い出話を重ねるのだが、
やさしい運転手が少しづつ変化してゆく。
ラストのどんでん返しが、後々まで残る嫌な結末。
後味の悪い作品はどうか?と思いますが、
ズバンと応えるほどの後味の悪さは嫌いじゃないです。