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2009年10月 第352冊
金聖響  「ベートーヴェンの交響曲」  講談社現代新書

金聖響  「ベートーヴェンの交響曲」  講談社現代新書

本書は金聖響と玉木正之の共著となっていますが、玉木氏が登場するのは
冒頭と結部の対談、それに前書きだけで、全体からすれば一割にも満たないかと思います。

本文はベートーヴェン全九曲を一章づつ採り上げている金氏の文章のみです。
事実上、金氏のベートーヴェン交響曲論ともいえる、非常に興味深い本。

クラシック・ファンなら、ベートーヴェンは避けては通れない。
バッハが凄いとか、モーツァルトが神だとか云っても、
楽聖ベートーヴェンはどうにも無視できない。

ショスタコやプロコこそが一番と思っている我輩も、
ベートーヴェンだけは敬わざるをえない。
そんなベートーヴェンを一介の中堅指揮者がどう考えているのか、
これは気になる。

また、金氏も思い切った本を出したものだ、と正直感心してしまう。
こういった本は一歩間違えれば音楽家として命取りとも成りかねないし、
逆に多くの信者も得られる両刃の剣。
でも、そういった攻めで前向きな心意気が頼もしい。

ただし本文中、金氏は自らの最も好きなナンバーを語らなかった。
ここら辺の慎重さと戦略性が鼻に突き、また、がっかりもした。
本書を執筆した時点での金氏の惚れ抜いている楽曲は何かを知りたかったし、
それをここで書いても、真のクラシック・ファンなら一生そうだとは
思わないだろうに。

文字と言うのはいつまでも残るし、人間の心はいつしか変わってゆくだけに、
一番好きなナンバーを文字化するのは避けたい気持ちは分かる。
でも、それを避けてしまうのは彼の本質を表わしているようでもあり、
この箇所以降読む気持ちが弱まった。

そうは言ってもこの本、ベトベン交響曲を一曲づつ雑学や指揮者ならではのネタも
開陳してくれて、大いに面白い。
本書の売れ行きさへ良かったら、ブラームスやチャイコフスキーの同様本も
書きたそうな後書きがあるので、大いにそっちもやって欲しい。

私なら、絶対そっちも買って読みますよ。
でも、クラシック本はクラシックCD同様、売れてないんだろうな。
ベートーヴェンの交響曲を知った上でこの本を読めば無類に面白いのに、
世の中どうしてそれを見過ごしている人が多いんだろうね。

ちなみに、私は第4番が一番好きです。
演奏はクライバー盤よりも、パーヴォ・ヤルヴィ盤がイチオシ!






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