2009年11月 第355冊
-
高野悦子 「二十歳の原点」 新潮文庫
-
高校時代、毎日一緒に下校していた親友が大感動していたのを想い出す。
親友のあまりの感動振りに少し引き、天邪鬼な私は読もうと思えなかった。
あれから随分時が経ち、若い頃に読まなくて良かったかも、と思う。
それだけ本書は若い人には影響力の強い本(日記)だと思う。
ある程度、自分の考えが固まって、物事を真正面から受け止めずに済む
汚さを身につけてから読んだ方が良い。
しかし、きつい本ですな、序盤から中段に移行して、終盤に
向かってゆく著者の精神変化のスピードが怖ろしい。
本書は鉄道自殺してしまう二日前までの半年間の、日記。
1969年1月2日から同年6月22日までを掲載している。
まず文庫本を開けば、彼女のはにかんだポートレートが飛び込んでくる。
こんなおとなしくて真面目そうな女性が・・・。
学生運動真っ盛りの京都、立命館の学生として絶えず孤独を感じている著者。
次第に酒量が増えてゆき、孤独から救われたいためにバイト先の男性とも
無防備な接近をする。アマゾンなどの感想は9割方感動絶賛のコメントだが、
私は残り一割の感想となった。
これを一つの文学として、自らを見つめる作品としては鬼気迫るものを感じる。
太宰と云う自殺憧憬の強い作家への傾倒、刹那的な肉体関係のあとの男性の
余りにそっけない態度(これは酷い!)。
そもそもこんなに精神的不安定だった女に手を出し、しかも手を出した後は
知らんぷり。まさかそれで女が自殺してしまうとは思わなかったんだろうが、
酷い男がいたもんだと憤慨してしまうし、世間は鬼畜のような男が普通に
佇んでいる事が、純朴な女学生はわからなかった。
失恋が結果的に引き金となったといえば身も蓋も無いけど、本書が四十年も
読み継がれているのもまた事実。何がこれほど人々を魅了しているか、
本能的にヒトは感じてしまうのだろう。
多くの読者は、彼女と柔らかに対話したいのだ。
早過ぎる死を選んでしまった、早熟な天才と。