クラウドサービスとは?
2010年02月 第363冊
ハイスミス  「愛しすぎた男」   扶桑社海外文庫

ハイスミス  「愛しすぎた男」  扶桑社海外文庫

今から五十年前、1960年に刊行された本書。
原題は「This Sweet Sickness」。
「この甘い病気」という直訳を持つ題名、内容はズバリ「ストーカー」。
五十年前のニューヨーク郊外を舞台に、いつの時代も
困った人がいた事が描かれる。

優秀な技術者である主人公の視点から、この世で自分ほど
愛している男はいないと信じている世界が描かれる。
愛された女性は、はっきりした態度を取らないばかりに
男の妄想はどんどん酷くなる一方。

女性は別の男性と結婚し子供も作り、ストーカー勘違い男に
祝福してもらえると思ったりする。当然この女性と結婚した男性は、
主人公のストーカー行為に激怒し怒鳴り込みに行くのだが、
ここらへんから夢物語がサスペンスに変わってゆく。

主人公は夢見る世界ばかりに浸ってられず、急速に現実の苦しい世界に落ちてゆく。

犯罪を重ねてラストの悲惨さは、最後まで主人公に一片の
奇跡が起きないか、ハラハラしてしまう。

五十年前とはいえ、基本的に人の心は変わっていない。
ストーカーという概念が希薄だった当時で、これほどまで
異常者の精神を丹念に描いた手腕は脱帽。
ストーカーの独善的精神世界が、よく描けている。






inserted by FC2 system