2010年03月 第366冊
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阿刀田高 「短編小説のレシピ」 集英社新書
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学生の頃、阿刀田高のブラックユーモアをよく読んだ。
大人のユーモアがあって、時に少しエロい、中学生だったから随分読んだ。
最初期の作品はアイディアに満ち溢れ、次々と読んでたのだが、
巻を追う毎にそうでもないなと思い、読むのをやめてしまった。
たまたまやっつけの作品集に読み当たったのかもしれないし、
エロが少しもなかったのが中学生にはご不満だったのかもしれないが。
久々に新書に阿刀田高の名前があったので、書名よりも著者名に惹かれて
本書に手を取った。
阿刀田高、昔はよく読んだ、読んだ。
たしかに阿刀田氏は短編小説に強いし、彼の短編には絶品が多かった。
そんな氏による「短編小説のレシピ」は面白そうだな・・・。
面白かった。たしかに面白い。
まず短編小説について概論がぶち上げられ、以下個別の作家の名品が
テキスト形式でどこが面白いか解説されてゆく。
少しも硬くなく、読みやすい解説だ。
向田邦子「鮒」
芥川龍之介「トロッコ」
松本清張「黒地の絵」
中島敦「文字禍」「狐憑」
新田次郎「寒戸の婆」
志賀直哉「赤西蠣太」
R・ダール「天国への登り道」
E・A・ポー「メエルシュトレエムの底へ」
夏目漱石「夢十夜」
阿刀田高「隣の女」
テキストは上記のとおり。
どうです?気になる作家があったら、面白いと思いますよ。
たしかに一発目の向田邦子は私も大好き。
彼女の短編からスタートしているだけで、本書の見識の高さが伺われます。
松本清張が入っているのも柔軟だし、海外作家ダールは知らなかったので、
選者の読書量も感服です。
それぞれ作家の背景やどうして面白い短編が書けたのか雑文風に読ませてゆき、
フムフムと読むうちにあっというま。
久々にあっという間に読んでしまった一冊だった。
こういう本も、たいして売れることなくフェードアウトしてくんだろうな。
本の運命は儚いものだ。