2010年05月 第373冊
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安部龍太郎 「血の日本史」 新潮文庫
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六百ページを超える大短編集。
平均13ページの短編が、実に46作品。
大和時代から明治維新までを満遍なく短編化することで、
日本通史のような効果も産んでおり、これは歴史短編小説集に残る金字塔。
なぜなら、全ての短篇がメッチャ面白いから。
時代に選り好みが激しい私なのに、しかも興味の無い大和時代の
短編集から始ったというのに、いきなりのめり込んでしまった。
しかも安部龍太郎の著作は初めて。
安部龍太郎に今頃気付いた私ですが、まだ読んだことの無い歴史ファンは、
是非!すぐ!
本書の題名のように、日本史は「血」の歴史ばかり。
要所要所では「血」が避けて通れなかったのか。
本書で登場する主人公は以下のとおり。
筑紫国造磐井、蘇我石川麻呂、長屋王、大宅首鷹取、平将門、安倍貞任、
清原清衡、藤原泰盛、源為朝、平清盛、俊寛、木曽義仲、源頼朝、源実朝、
若狭局、安藤弥四郎、護良親王、高師直、大黒屋五平、太田道灌、
大内義隆、松永久秀、織田信長、千利休、淀君、帥局礼子、豊臣秀頼、
安藤重長、長井新太郎、幡随院長兵衛、奥平源八、八百屋お七、
初代団十郎、間部詮房、天童敬一郎、田沼意次、神尾五郎三郎、
大塩平八郎、銭屋五兵衛、有馬新七、岩倉具視、高橋安次郎、大久保利通。
まったく聞いた事も無い人物名が混ざってますが、これは脇役から
歴史を語るテクニック。どれも手の込んだ、それでいてストーリーが
解かり易い、短篇小説としても上質な出来ばかり。
織田信長なんて高野山聖千人斬りを取り上げているし、
田沼意次は息子意知の訃報を父親として嘆く話に仕立てている。
どれも視点が一風変わっていて、斬新。
淀君と秀吉は、秀頼を実の子で無いことを解かった上で実子として
認めてゆく話にしたり、竜馬暗殺を暗殺者側から描いていったり。
私の祖先も格好良く描かれていたりして、個人的にも嬉しかった。