2010年05月 第375冊
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早乙女貢 「江戸あるき西ひがし」 小学館文庫
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東京の、それも江戸時代の名所を現代地理に置き換えて、
逸話を交えて紹介してくれる。
特筆したいのは、かなりの「毒舌」。
早乙女貢は惜しくも2008年12月に亡くなっているが、「會津士魂」で有名。
読んでみたいが、かなりの長編なので手が出ない。
本書文庫版は99年初版なので、1926年生まれの筆者が六十代に
書いた物と思われ、大御所的な毒舌が小気味よい。
舌鋒の向かうところは、「寺」。
江戸時代、江戸の多くの寺は風紀が乱れていたようで、
本書でも絵島事件で述べられているが、著者の寺への怒りは大きい。
歴史作家として、旧跡名所や寺社仏閣へ取材をすることが多いようだが、
金儲けに走っている事例を多く発見してしまったからのようだ。
歴史有名人のちょっとした関わりを殊更強調して石碑や墓石を
こしらえて、金儲けに邁進する事もあるのだろう。
著者の「我慢ならんっ!」という書きっぷりが爽快。
司馬遼太郎よろしく著者も脱線すればすれほど、話が面白くなる。
原宿の竹の子族への憤懣とか、いかにも当時のご老人の怒りがダイレクトで
可笑しい。昨今のアキバなど、著者はきっと嘆いていたんだろうな。
そうは言っても、堅苦しくガミガミ言っているのはそんなに多くない。
大方は、現代の東京都心部が江戸期はああだったこうだった、歌舞伎で
有名なアノ話はここで実際起こった事件だとか、旗本や同心がこの辺に
組み屋敷を貰ったからこういう町名になっていてと、歴史好きな人が
読めば大いに楽しめる。
私も自分が住んだ町やたびたび訪れて関わった町なんかが出てくると、
ふんふんと興味深く読めた。東京の、しかも江戸期の中心街と繋がりが
無い人は、それでなんなの?と思ってしまうだろうが、こればっかりは
しょうがない。
登場する場所は多く、浅草からはじまって、日暮里、谷中、根津、本郷、
御茶ノ水、神田、向島、柴又、亀戸、佃島、四谷、高輪、麻布、山王、
赤坂、青山。
他にもいっぱい出てくるが、東は江東区から西は渋谷辺りまでで、
武蔵野や多摩は出て来ない。江戸時代には大いなる畑地だったからだろう。