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2010年07月 第385冊
三浦哲郎「忍ぶ川」新潮文庫

三浦哲郎  「忍ぶ川」  新潮文庫

若い頃、「新潮文庫の百冊」みたいなスタンダードナンバー(お仕着せ)に
反発して、名作と謂われるものは敢えて避けていた。

古都情緒(京都大好き)に溢れた川端康成はよく読んだが、三島とか太宰は未だ
読んでいない。しかし、もうこの歳になって、そろそろ何でも読んどかんと、
読まず仕舞いになってまう。

興味を持ったものから、時々純文学の名作も手に取ってみようと読んだのが、本書。

読む前のイメージは、「神田川」。
早稲田あたりの大学生の、学生結婚貧乏記と想像していた
(実際そういうのがあったら、読んでみたい)。

しかし本書は、近いようで、かなり違った。
早稲田の学生が主人公というのはいかにもって感じで当たっていたが、
どうしてこういった東京の大学生モノは早稲田ばっかりなんでしょうね。

東大や慶応だと鼻に突くけど、たまには不本意ながら日大に進学した若者の
屈折したコンプレックスを描くとか、地方出身の埼玉大生が必死に東京へ
足を伸ばして東京ライフを満喫する、なんて設定があってもいいのに、
戦後純文学の学生といえばワセダ。

この早大生が料亭の仲居さんと恋をし、学生結婚に至るまでの心の動きを
描いている。正直、なかなか面白かった。

丁寧に描かれているけど風景とか背景の描写が少なく、ストーリーの進展も適度で
フムフムと読めた。純文学で何が苦手かって言うと、(どうでもいい)空の動き
だとか、道端の名も無い花の描写とか。

もちろんそういった描写によって、主人公達の心の動きを(遠回しに)
代弁してるんでしょうが、そういったものに限って、ストーリーは
大した事がない。

ところが本書はさすが芥川賞受賞作だけあって、この覚束ない若い二人が、
生活のあても無いのに結婚したり子供を作ったり、この先どうなるんだろう?
と少しワクワクして読んでしまう。

「忍ぶ川」そのものは五十ページにも満たない短篇で、このあと6短篇が続き、
主人公達の行く末も語られてゆく。

各編独立していて、少しづつ設定も統一されていないが、私小説仕立てで、
暗くなる流れなのに何故か暗くもならない不思議な短篇小説集。たしかに、
名作だと言われる力がある。






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