2010年07月 第392冊
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桐野夏生 「OUT」上下 講談社文庫
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生活に疲れた、幸薄いパート主婦が4人、東京多摩の食品工場で
コンビニ弁当を流れ作業で深夜働いている。
4人の主婦の哀しい日々が順々に語られてゆくのだが、
登場するどの場所も大体分かる。
結構広範囲に多摩北部が描かれるのだが、むかし馴染んだ場所なので
懐かしいほど分かる。実際は、小説で描かれるほど殺伐とした地域ではなく、
玉川上水や五日市街道や新青梅街道を横線とした緑がやたら多い住宅街。
そんな場所で、不幸から抜け出せない主婦4人の生活からストーリーは
進んでゆく。
4人の中で最も幸せそうな女が、実は最も深刻な状況だった。
夫がキャバクラのホステスに入れ揚げた挙句、
ギャンブルにまでのめり込んで、夫婦で貯めた
マンションの頭金5百万円すべてを使い込んでしまう。
このあと物語りは急転直下、グロテスクに次ぐグロテスク、
悪行に悪行を重ねてゆく主婦たち。いくら人生にきぼうを
見失ったからといって、ここまで堕ちていくか疑問。
警察が動き出し、主婦4人と警察の勝負が描かれるのかと
ハラハラ読み進めるが、数々の複線が主軸に滑り込んでくる。
先の読めない上巻から下巻中盤までは一気呵成に読んでしまう。
読書スピードが滅法遅い私は通常一日五十ページ前後読むのが
やっとこさなんだけど、この上下巻780ページは5日で読んだので、
一日150ページほどの速さで読んだ事になる。
ちなみに一日の読書時間は、合間合間しかない。
大変面白くハラハラ読めたクライム・ノベルスなんですが、
強いて言えば、最後のオチがどうもなぁ。
夫も息子も捨てて、あんな変態野郎と一気に意気投合できるもんかな?
そもそも、あんな大それた悪行を思い切ってしてしまう主人公こそ、
毀れてしまってると著者は言いたいんだろうけど。
こう描いたからこそサスペンス&ミステリの傑作になったんだけど、
どこかに現実的な砦も欲しかったと言うのは欲張り過ぎなんだろな。
敢えて桐野夏生は読んで来なかったけど、また注目しなきゃいけない作家が
増えてしまった。トホホ・・・。