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2010年08月 第398冊
トランボ  「ジョニーは戦場へ行った」  角川文庫

トランボ  「ジョニーは戦場へ行った」  角川文庫

私は歴史物が好きで、吉川英治の「三国志」や「新平家物語」から
始まって、司馬遼太郎にどっぷり学生時代ハマりました。

だからこの読書感想で司馬遼太郎が出てこないんです。
世界史より日本史が好きでして、戦国期、江戸期、幕末、
明治大正期と関心事は変転し、最近は第二次世界大戦(WW2)
周辺に関心が集中している。

8月といえば、お盆。お盆と言えば、終戦。
日本の8月は、戦争を後悔したり反省したりの一色です。
織田信長や徳川家康を読んでいても、それが「戦争好き」
「血生臭いものが好き」とは思われませんが、第二次世界大戦の
戦艦大和やゼロ戦を読んでいると、ときどき眉を顰められます。
「戦争が好きなんですか?」と。

関ヶ原の戦いについて語っていても戦争好きとは直結しないのに、
真珠湾攻撃だと戦争好きとなってしまう。
ここら辺の短絡思考というか直結思考というのは、ある意味、
日本人の戦争アレルギーなのかもしれません。

戦争は駄目だ、戦争は二度とゴメンだ、戦争は一切許さない、
だから戦争モノの本も見たくもない。直視しなかったら、
戦争からドンドン離れて行ける、といった心理なんだろうな
と思う。

たしかに戦車とか戦闘機のスタイルは格好いいが、
それは殺人殺戮マシーンであり、決して旅客機や土木作業車では無かった。
人殺し兵器の大活躍を読んでいるわけだから、WW2物の本を
読んでいるのは不気味なのかもしれない。

しかし戦争の事象や失敗という本質を知らずして、戦争は語れない。
戦争の恐ろしさや悲惨な事実を知らずして、戦争に至ってしまう
パターンは気付きにくい。

何もそんな高尚な思想のもと読んでいる訳じゃないし、
知的好奇心から読んでいるのだが、危ないものには近寄らず的な発想は
かえって予防注射無しで雑踏を歩いているようにも思えるのです。

さて、8月という事もあり、反戦小説を読んでみようと手に取ったのが
本書。

本書は何度も、あの自由の国アメリカで発禁処分に
会ったという一大反戦小説。第一次世界大戦に志願し、
目鼻口両腕両足を爆撃で失い、真っ暗闇の世界で、
病院のベッドで生きながらえることとなった主人公。

彼の健康だった頃のエピソードが負傷後の悲惨な姿の前後に
描き出され、その対比はあまりにも残酷。

後半、ようやく彼の胸に指でスペルをなぞれば彼が
理解していると看護婦が気付きます。
彼は生命維持装置で生きているだけなんだろうと
思っていた医師達は小躍りして、彼の胸にメッセージを
指でなぞってゆく。彼に「何をして欲しいか」尋ねるんですね。

この終盤の下りは悲惨きわまりなく、ここでサラリと
書くことなんて出来ない。
ぜひ、本書を読んでみて、この下りを反芻して欲しい。

もし戦争が起こり、自分がこのような立場となったらどうするか、
どう思うか。「考えただけでも恐ろしい」だけでなく、
考えて考えて考え抜くことで戦争の本質が見えてくる筈。

一思いにバッサリと即死するのもイヤですが、
こうやって命を永らえて生きてゆく運命が待ってるかも
しれないのが、戦争なのです。

主人公が、最期に医師達に訴える回答に、戦慄を覚えます。
そりゃそうだろう、そりゃそう望むだろうと。

そしてラスト、スローガンのような思考がどんどん拡散されて、
小説の終わり方とは思えないような滔々としたメッセージが
洪水のように圧倒します。

この小説の終わり方、本当に圧倒的です。

作者トランボは、その後、「ローマの休日」の原案・脚本も書いています。
本書とあの名画が同一人物から産み出されたという事に、また驚きます。






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