2010年09月 第407冊
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小川洋子 「刺繍する少女」 角川文庫
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二〜三十ページの十篇からなる短編集。
「刺繍する少女」「森の奥で燃えるもの」「美少女コンテスト」
「ケーキのかけら」「図鑑」「アリア」「キリンの解剖」
「ハウス・クリーニングの世界」「トランジット」
「第三火曜日の発作」
十篇のタイトルをご覧頂いて、興味を持った人は脈あり。
独特の雰囲気と世界を持った、ひんやりした世界が待ってます。
読みやすく、あっという間に読めてしまう短篇ばかり。
最後の最後に何が起きるんだろうと、一篇を読むまでは止められない。
それでいて、何が起きるとも無く終わってしまう話もあり、
一体どこに「仕掛け」があったんだろうとパラパラと
読み直してしまう話が多い。
ただ、読み終わって、一篇一片の独特な世界が、
しばらく脳に残ります。
動物のように咆哮した女性から去っていった男性はどんな気持ちだった?
元オペラ歌手の女性は、甥が去った後どんな気持ちで食器を片付けたのか?
医学に携わるような男が、どうして彼女に堕胎させたんだろう。
ぜんまい腺を抜き取る収容所って、なんなんだろう。
祖父を匿(かくま)った夫婦は、本当に密告してなかったのか?
どれもこれも、しばらく小説世界の描かれなかった背景を想像してしまう。
こんな読後感を心地いいと思うか、もやもやするなぁと思うか。
私は後者。
上質な文学だと思うんですが、ピタリとは来ない。
でも、ある日突然、この短編の一風景を追体験することがあったら、
怖いだろうなぁ。