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2010年10月 第415冊
中川右介  「カラヤンとフルトヴェングラー 」  幻冬社新書

中川右介  「カラヤンとフルトヴェングラー 」  幻冬社新書

クラシックに何の興味も無い人でも、カラヤンとかフルトヴェングラー
という指揮者の名前は聞いた事があるでしょう?

私は15の時からクラシック一直線。
だけどフルトヴェングラー(以下フルヴェン)だけは避けてるんです。
自分に与える影響が大き過ぎそうで、フルヴェン・ファンの多くは
ガチガチの信者みたいになっちまって、世界の多くを
見ようとしなくなっているかのようで。

カラヤンは流石に聴いている。
彼の真骨頂はオペラで、豪華絢爛、流麗なフォルムは極上の美術品だ。
ただし深みに乏しく、精神性に弱い・・・と言われている。
私は決してそうとまで思わない。
カラヤン支持者でもないけど、リヒャルトのローゼン・カヴァリエや
プッチーニのトゥーランドットなんかはカラヤンだからこそ成し遂げた
名演だと思う。

ちなみに私の最も好きな指揮者は、ミヒャエル・ギーレン。
他に評価しているのは、ヒコックス、マッケラス、ザンデルリンク、
ロジェストヴェンスキー、ケーゲル、スラトキン、P・ヤルヴィといった
超一流とは言われていない指揮者たち。
いずれも彫の深い、アクの強い演奏が好みだ。

ヒトラーが台頭しだした戦前から戦中、戦後十数年までの
フルヴェンからチェリビダッケを経て、カラヤンに宝玉が
落ちてくる辺りまでを描く、ベルリンを舞台とした男達の泥沼の戦い。
これは面白すぎる。

現代では、フルヴェンはすっかり神格化されてるが、
彼があらゆる手を使って若くしてベルリン・フィルを
手に入れたかが初っ端の先制パンチ。

この経緯はフルヴェン信者には怒り心頭だろうが、著者は
誰の味方でもない。いな、三者ともを嫌っているのかもしれない。

フルヴェン、カラヤンを時系列的に交互に描いてゆくのだが、
途中で登場するのが自転車に乗って現れたチェリビダッケ。
ナチス戦犯裁判中ゆえ指揮が出来ないフルヴェンに代わって、
ベルリン・フィルを指揮することになるチェリビダッケ。

カラヤンには強烈なライヴァル心を抱いて、
数限りない嫌がらせや追い落としを嵌め込むフルヴェンだが、
チェリには心をほだされてしまう不思議さ。

しかし強烈で強引な練習指導でベルリン・フィル団員の心が離れ、
フルヴェン死去後は、そのタクトはカラヤンに飛んでしまう。

たとえ数年間といは言え、数百回もベルリン・フィルと指揮をし、
練習を重ねた中なのに、あれほど先任が嫌い抜いていたカラヤンを
指名するベルリン・フィル。

その後の悪夢を想像できずに、帝王カラヤンを産み出してしまうくだりは、
まるで神話、いな地獄の黙示録を読むようでゾクゾクする。

各種批評では散々書かれている事もあるが、仕方ない点の方が大きいと思う。

新書という小さな枚数で収めること。
三人の動きや発言は一刀両断できるものばかりでないが
大きな流れは分かりやすく書かざるを得なかったこと。

三人のうち、誰トクになることなく書かれていること=誰をも悪く書いている
が、結局世界の頂点を極めんとする者はある程度は悪人だと思うし、
それが芸術性を損ねるとも思わない。

続編とも思える「カラヤン帝国興亡史」(幻冬社新書)も読まねば!






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