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2010年10月 第417冊
白石一文  「すぐそばの彼方」  角川文庫

白石一文  「すぐそばの彼方」  角川文庫

「すぐそばにある最も大切なものほどいつも遠い彼方にあるのかもしれず、
遠い彼方にある最も大切なものほど本当はすぐそばにあるのかもしれない
(以下省略)」(本文399ページより)。
最終盤で登場する上記一文が、本書で最も言いたかった内容となります。

評価の高い現代文学作品ですし、白石一文は「不自由な心」に
感動して以来本書が4冊目の読書なんですが、
本作品は感動も納得もできなかった。

大物政治家の次男が主人公。
外務大臣を務める父の代わって、海外講演で発表する論文なども
作成できる優れた頭脳を持つ主人公だが、恋愛や金銭での感覚が
常人でなく、庶民からすれば何を考えて行動してるのか理解もできないし、
ましてや小説に共感などコレっぽっちもできやしない。

3万円くらいしか所持金がないのに、2万円のバラを買って
好きな女のアパートに行く。所持金は1万円前後なのに、
二人で焼肉屋で食べきれない料理を注文したり、
限定の日本酒まで飲み明かす。

会計の時になって初めて所持金の持ち合わせが無い事に
気付くなんて、実際どこまでお目出度いんだろうか?
挙句の果てに、友人に金の無心をするのだが、
この友人との積もり積もった借金もこれまた忘れてしまっている。

友人は当然怒っているわけだが、この流れを読ませて、
作者は読者に対してこの主人公が異常な精神状態が
続いていることを伝えたいのだろう。

たしかに主人公がおかしい事は伝わるのだが、どうでもいい話を
聞かされているような気になってきて、読めば読むほど浮世離れした
「小説」を読まされているようで、久々に面白くない読書タイムとなった。

辛すぎて、一週間以上かかった。
白石一文作品はどんどん文庫化されてて、そのほとんどを
購入済みなのだが、本書みたいなレベルばかりだったらソラ恐ろしい。

本書の結末も「なんじゃそりゃ」。
あれほど正妻との間の息子に愛情を持っているのに、
愛人との間に娘が出来ていたことを知って主人公は会いに行く。

そりゃ、愛人が自分の娘を産んで田舎で逼塞していたと聞けば
不憫に思うでしょうけど、じゃぁ正妻や長男は打ち棄てていいのか?
男として、まったく責任感が無い。

その時その時の考えで、自分を悲劇の渦中に落として、
哀しみの正当性を描いている。
著者白石一文の矜持さへ疑ってしまう。

「この主人公はかわいそうでしょ?だから状況に陥ったら、
人はこう流れてゆくもんでしょ?」
と作者は本気で考えて書いてるんだろうが、こんな人間そうそういない。
アマゾン・レビューは驚くほど高いけど、私だったら星2つ、
特にラストが不愉快でしょうがない。






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