2010年12月 第423冊
-
紀田順一郎 「古書収集十番勝負」 創元推理文庫
-
神田神保町の古書店。
老人店主の余命は、あと1年ももつかどうか。
後継者は二人、同居して病人介護を十年努めた長女の夫と、
店主の後釜を狙って途中参加してきた次女夫婦。
倫理的には長女の夫であり、この店に長く勤めてはいるが本の知識が浅く、
事務的で商売上手とは言えない。一方次女の夫は浪花の商人。
コテコテの大阪人で、東京人が大阪人に持つイヤな面全開な人物。
ただし本の知識や商売のからくりに精通しており、
こすっからくて目端が利く。
この二人の婿に対し、老人店主は古書収集十種で競わせる。
これは古書に対して深い洞察のある著者ならではの本領発揮であり、
古書界でどういった本がお宝なのか、古書収集の醍醐味がどこにあるか、
など滔々と語られてゆく。
ここが本書の白眉。
著者としては、古書界の裏話とミステリを絡めたかったんだろうけど、
正直、古書の裏話だけの方が面白い。
「ミステリが何が何でも大好き」という私ではないので、こんな感想に
なるのかもしれないが、素晴らしいミステリになってるとまでは言えない。
古書に絡む大半は素晴らしい面白さで、このあたりを短編集みたいに
一編一冊で紹介してくれた方が嬉しい。
何はともあれ、本好きの私にとっては実に面白かった。
最終盤、いよいよ十番勝負が大詰めになったとき、
完全に密室紛失事件になってしまうのは白けてしまい、
著者はつくづくミステリとして書いてたんだなぁと思った。