2010年12月 第425冊
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山本周五郎 「さぶ」 新潮文庫
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学生の頃読んでいただろうと勝手に思い込んでいたが、
今回読み始めてみて、すぐ未読だった事を悟った。
何をやってもドジでグズな「さぶ」と、対照的な「栄二」。
経師屋の住み込み奉公の二人は互いに励まし合いながら、というよりは、
栄二が、さぶを励まし続ける形で修行期間が過ぎてゆく。
大体こういう始まりは、颯爽と上手く行っている方に不幸が訪れる。
本書も予想した通りだったのだが、その不幸が半端ない。
ここまで何もかもが裏目恨めに出てゆくと、
後半でどう落とし前をつけるのか不安になってくる。
本書の最大の読み場はこの中盤で、鬼平ファンお馴染みの
石川島の人足寄場での描写は詳細を極め、刑務所実録でも
読んでいるような充実ぶり。
ただし終盤の落ち着けどころ、これは少し説教臭い。
周五郎作品全体に言えるのが「説教臭さ」で、
サラリと事象だけを淡々と積み重ねて行った方が重みがあるのに、
じわじわと気付かせようと書き重ねてゆく重圧が重い。
また、栄二が人生転落してしまう原因が終盤で
明らかにされるのだが、この原因はとんでもない話。
すっかり人間の出来上がった栄二だから修まるのであって、
そこまで人の人生いじくれるものだろうか、と筋に納得がいかない。
小説としては中盤まで面白くて先が読みたいばかりに
一気呵成に読み耽ってしまう。
それだけに終盤が、明らかにされてゆくストーリーに
不満が残ってしまった。