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2011年1月 第426冊
原りょう  「私が殺した少女」  ハヤカワ文庫

原りょう  「私が殺した少女」  ハヤカワ文庫

直木賞とファルコン賞をW受賞した、原りょうの代表作にして傑作。
原りょうの「りょう」は、「寮」のウ冠を取った字体であり、
文字化けしそうなので使用しない。

題名から邪推すると、ロリコン犯人の悪徳小説のように
思えていたが、内容は全く違う。

沢崎探偵が依頼主宅を訪問すると、
突然誘拐犯の共犯者として逮捕されてしまう。

何がなんだか判らない展開はまるで自分が沢崎探偵に
なっている様に同化させてゆく。警察署で取調べを受け、
事情聴取を受けている頃には完全に小説にのめり込んでしまっている。

依頼主の娘、天才ヴァイオリン少女が誘拐され、
沢崎探偵は誘拐犯の一味と誤解されていたのだ。
誘拐犯からの相次ぐ指令で、事態は少しづつ見えてくる。
この読めば読むほど見えてくる展開がたまらん、
これは最高に傑作だ。

ハードボイルドの権化のような作品。
探偵の行動や思考・会話は一言一句おろそかに出来ない隠し味があり、
三十分で二十ページしか読み進められない。

四百数十ページの長編なので、時間を見つけては読み進めたが、
完読までに一週間も掛かった。
でも、この一週間は本当に有意義だった。
面白い本を読んでいる期間は、本当に楽しい。

著者の第一作「そして夜は甦る」は良さが判らなくて、
自分には合わない作家なんだろうと本作(第二作)を
長い間放置していたんだが、こうも素晴らしい第二作に
出会えた例はない。

第三作も素晴らしければ著者が本物だという事だし、
そうでなければ本作「私が殺した少女」が本物という事になろう。

四百数十ぺーじあるのだが、どのページも目が離せず、
淡々とジリジリと話は進む。予想外の展開が多く、
ストーリーは探偵の勘がことごとく当たるのが有利だが、
警察捜査と探偵単独捜査の対比によって違和感とまで
感じさせないようにしている造りが美味い。

誘拐となれば家族や親戚が重要な登場人物なのだが、
最初から「変だな」と思う動きをしている人物がいる。

えてしてこういう人物の動きは最小限の描写に留められており、
ここに目星をつけて読み、最終的にもクローズアップされて
しまったのは残念だが、何度も事件が解決しそうになる造りなので、
その都度「読みが間違ってたのか?」と混乱できて楽しめた。

ハードボイルドものは東直己や黒川博行などで好きだが、
本作で一層好きになった。
こういう「早く読めば良かった」と思える傑作に、
今年は何冊出会えるだろう。






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