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2011年11月 第486冊
海音寺潮五郎  「筑紫おとめ」  六興出版

海音寺潮五郎  「筑紫おとめ」  六興出版

出版界の苦境はますます酷く、私は古本派なので
申し訳ない気持ちで一杯なのですが、数十年前の本の方が
面白い本が多く、敢えて昔の本が読みたくて古本巡りを
してしまう。

この理由は、バブル期前後の出版物は企画許容度が深く、
採算度外視の著作が多いためと感じる。

万人が読みたい作品より、私が読みたい作品を探すのだが、
一部の変わり者向けの著作になるほど売れ行きは減ってしまう。

それを許して行けたのは、好景気が必須であり、
現代のように売れなきゃ企画倒れの時代では、
なかなか変わった本は生まれにくい。

活字離れ、本離れ、電子書籍化・・・、
これから面白い本はますます産まれににくくなるだろう。

東京に来て早一年、一つの古本屋に前回いつ来たのか
判らなくなってきたので、9月から記録を付けるようになった。

9月14軒、10月27軒。
週2冊読むのが精一杯なのに、週10冊以上買っているので
本部屋の床が抜けないか少し不安。

私が読書にはまったのは、小学生の時、吉川英治の「三国志」や
「新平家物語」からだったと以前書いたが、その時読んだのが
六興出版の名作文庫だった。

これは現在の文庫や新書サイズより一回り大きく、
今ではそこらの本屋では見つけられない。

こういった良質の文庫が消えてしまったのは実に惜しい。
どういういきさつで大判を固持したのか不明だが、
あの頃から文庫か新書に移行していれば、六興出版も
元気だったかもしれない。

本書は戦中戦後の中短6編から成っており、
幕末維新や西南戦争前後を中心とした九州を舞台としている。

戦中と戦後の作品意図は大きく相違があり、戦中モノの特色が悲しい。
戦いによる悲劇を題材としているのだが、そのどれもが
「いさぎよく」立ち向かって死を恐れない人々を描いている。

来るべき本土決戦に向け、婦女子も敢然と死ぬ覚悟を
植えつけるような方向性が出ており、時代の流れを
汲んでいるのか出版社の要請を受けているのか、
海音寺作品としては違和感の強い作品が混じっている。

「筑紫おとめ」
久留米藩尊攘派志士淵上郁太郎夫婦の悲劇。
揺れつつも夫を信じ続けた筑紫おとめを描く。

「大脇兄弟」
西南戦争に翻弄された兄弟と恋人、
戦争が人生を狂わせてゆく。

「梨花賦」
西南戦争で敵味方に別れてしまった兄弟。

「薩摩隼人」
薩摩隼人は裏切りや不名誉を最も忌み嫌う。

「暁の笛」
自由民権運動の中、密告者に貶められた男の顛末。

「戦雲」
最も悲しい話。会津藩の滅亡と結ばれなかった男女、その家族。






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