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2012年04月 第509冊
海音寺潮五郎 「日、西山に傾く」 東京美術
海音寺潮五郎 「日、西山に傾く」 東京美術

昭和47年初版の歴史随筆集、単行本。
「海音寺潮五郎短篇総集」全8巻が講談社文庫より出ているが、
本書は短篇小説で無く、随筆集なので貴重。

ネットならたまに見かけるので、安く出ているなら、
買って損は無い逸品。

海音寺は1977年(昭和52年)、77歳で死去したが、
本書は1972年(昭和47年)にあとがきが記されているので、
まさに晩年、人生を振り返りつつ幼少期から最近までの
思い起こすままに書き散らした、彼を知るには非常に重要な一冊。

ウィキペディア冒頭に書かれている「海音寺潮五郎」という
ペンネーム由来も、本書の「夢想の筆名」で告白されている。

鹿児島で生まれ育ち、伊勢の皇學館や東京の國學院で学んだのに、
紀州の浜辺でうとうとと眠っている夢の中で、
「海音寺潮五郎、海音寺潮五郎」という声を聞く。

ちなみに、ドリカムの中村がある作品のペンネームとして
「海音寺潮二郎」を使ったそうで、彼も海音寺のファンであったら面白い。

学生時代、中学教師時代、作家になり始めたころ、別荘での暮らし・・・。

特に目を引いたのは、南條範夫直木賞授賞式でのエピソード「虎に追われた話」。
当時虎大臣の異名を取った「泉山三六」氏の酒のしつこさを嫌った
エピソードなのだが、私が好きな南條範夫の直木賞受賞パーティが舞台であるし、
吉川英治のスピーチ(南條は真面目すぎだ、もっと酒を飲み遊ばなければ
作家として大成しない、といった趣旨)が出てきて、今じゃ考えられない豪華さ。

本書の中で、彼は仕切りの残された寿命で出来る仕事量を考えている。
ライフワーク「西郷隆盛」を完成させたいと仕切りに悩んでおり、
あと十年あればなんとかなると計画している。

実際は五年後に亡くなっており、大長編「西郷隆盛」は
朝日新聞出版単行本で第9巻、江戸城開城のくだりで絶筆となっている。

もし西南戦争まで含んだ全史が描かれていれば、
司馬の「竜馬がゆく」と並ぶ傑作と評価されていただろうに。

雑文雑筆一切仕事は受け付けないと宣言してまで「西郷隆盛」に
注力するのだが、完成を夢見ているころの随筆が、涙ぐましい。






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