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2012年05月 第515冊
小川利彦「幻の新鋭機」光人社NF文庫
小川利彦 「幻の新鋭機」 光人社NF文庫

歴史シミュレーション、特に第二次世界大戦のイフものを
読んでいると、必ず出てくるのが「幻の新鋭機」。

史実では、軍部の無能や予算削減で開発断念されたが、
もしあの研究機が完成し、実戦配備されていたら
どれほど大活躍していたことか・・・。

そんなヨタ話が実に多く、そこまで書くんだったら
どうして当時の人は、放棄しちゃったんだろう
と不思議でならなかった。

しかし、本書を読めば、そんな疑問はかなり解決してくれる。

軍首脳部に、先を見通す力が無かったり、
陸軍・海軍の予算費争いとか、いろんな事情がある。

だが、最も大きな理由は、
理論と製造実力が、伴ってなかったから。

例えば、百の力を持ったエンジンを積んで
初めて、百の性能を発揮できる飛行機を、
設計図で書いたとする。

機体製作に、6ヶ月かかるとして、
現時点のエンジン性能は、50だとしよう。
あとちょっとで、6ヶ月でエンジン性能を
100に上げれると仮定した設計なのだ。

現実は、研究所が空襲されたり、
熟練工が徴兵されたりで、6ヶ月経っても
エンジンは、70くらいにしかパワーアップできない。

100パワーのエンジンを、積めるからこそ、
100パワーの新鋭機が、完成するわけだが、
70パワーでは、機体が重すぎて飛ぶのがやっとこさ。

性能ウンヌンどころでは無くなってしまう。
そこで研究中止、もしくは研究失敗となってしまう。

新鋭機のデザインやアイデアは、どれも目を見張るものが
あるのに、エンジン(精密機械)が追いつかない。

エンジンの「理論」が追いついたとしても、
実際に、精密部品からなる製造技術が伴わない。
精密部品を、作り上げる工作機械や熟練工が
追いついていないからだ。

ここで考えてみる。
基礎理論や機械工作機が、いかに重要であるかを。
もし大正・昭和初期までに、こういった地道な基盤体制を
整えていたとしたら。

戦後日本はものづくり王国と、呼ばれるようになったが、
これは機械製作機をまず整え、更に一大輸出産業にまで
発展させたからだそうだ。

アイデアは浮かんでも、実際それを具現化できる工作機が
手元に無い悔しさを、戦中の人がいかに学んだかを物語る。






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