2012年07月 第534冊
-
藤沢周平 「風の果て」上下 文春文庫
周平作品の中でも、これは素晴らしい秀作。
上下二巻の長編だが、久々に徹夜してしまった。
十万石余りの東国の中規模藩。
主人公は百石余の下士の次男坊。
剣術に励み、不毛の台地を開拓する夢見る青春が過ぎ、
婿養子に納まってゆく。
終盤では、異国の黒船が現れる描写が、チラと出たり、
田沼政治から白河公の松平に、幕閣が変転する流れなども出るので、
時代は、江戸中期から後期の始め辺りか。
仮想した藩は無いようで、著者の想像する仮想の藩のようだが、
史実を調べ尽くして書き上げたようなディティールが素晴らしい。
主人公の人生を、一から十まで分けるとすると、
物語は、いきなり九あたりから始まる。
功成り名を遂げた五十代の主人公が、とんでもない事態に直面しつつも、
落ち着いた行動で、事態を打開しようと、旧友を訪ね歩くとこから始まる。
過去を回想する形で、十代後半の青春時代に話は移り、
一気に、物語りへ引き込まれてゆく。
人生の流れと、五十代の現在を、行きつ戻りつ話は進み、
複雑な構成ながら、判り易く読ませる手腕に唸ってしまう。
とある江戸時代の中規模藩の立身出世物語?もしくは
野望ある青年の一生と藩の動静が、じっくり読み込める。
江戸期の農政、藩の役人達がどのように考え、動き、
政争に巻き込まれてゆくか。
それでいて、一男児の人生や家庭の苦難も、しっかり伝わる。
久々に周平作品を読んだが、武家モノも町人モノも、どちらも彼は面白い。