クラウドサービスとは?
2012年08月 第537冊
乙川優三郎「椿山」文春文庫
乙川優三郎 「椿山」 文春文庫

短編3編「ゆすらうめ」「白い月」「花の顔」と
中篇表題作「椿山からなる中短編集。

乙川は好きな作家なのだが、短編「花の顔」で非常に不快になり、
強烈な印象が残った。

厳しかった姑が、少しづつボケてゆき、家族の理解も得られぬまま
壊れてゆく姑の世話に翻弄される嫁の姿を悲惨に描いてゆく。

ボケて童心に還ってゆく姑の言動から、
姑の本心を汲み取ってゆく点に美談を感じるべきなんだろうが、
ボケの描写が辛辣すぎて、こういった生活の中で真実に
気付いたからといってなんとなるのだろう。

それに気付いた嫁を、本の中で読む読者は
高見の見物に過ぎないのではないか。

渦中にいる嫁は気付いたとしても、
目先から小便を垂れ流す下の世話が待っているのだ。

「ゆすらうめ」は女郎の話。
農家を助けるべく女郎になった娘が、とうのたった女になった頃、
無事女郎を満期退職できる。

新しい職場?茶屋店員の道も見つかり、さあこれからという時に、
実家の農家からまた借金を土下座してくる。

年季が明けたばかりの女郎に蓄財なんかあるわけも無く、
でも農家に金を渡さないと潰れてしまうと言う。
結局女郎に舞い戻り先払い金で農家は一息つけるのだが、
女郎は身を沈める。

女郎の番頭さんが(根は)良い人で、なんとか女郎の立身を
成り立たせようと動くのだが、最後は書いたとおり。

女郎に幸せはありえないのか、と番頭はいつしか女郎に
恋している心に気づくだけに、やるせない思いをする。

リアリティ溢れる路線で、詩情豊かに
描いてはいるが、読後感が非常に悪い。

まったく、かわいそうでならなかった。






inserted by FC2 system