2013年4月 第570冊
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池波正太郎 「鬼平犯科帳15」 文春文庫
今までは短編からなる鬼平でしたが、本書第15巻にして初めての長編。
「特別長編雲竜剣」と銘打ってある。
何が何でも書きたい題材があり、それを描き切るために長編となった、
とは感じられない。
いつもの歯切れの良い、無駄を省いた、でも味のある文はどこへやら。
長編だから時間はたっぷりあるぞと悠々した展開、間延びしてるだけですやん。
特に前半がひどく、様々な事件事象に暗中模索、どの手が当たるか
判らないから無駄を承知で四方八方。
結局、終盤では強引に、みんなの一つ一つの行動に意義があったように
こじつけていますが、中篇で十分なネタだったのではないでしょうか。
というのも、最後まで読めば、それなりに悪くなかった骨格が判ったから。
中編(二百ページくらい)にするんなら、いっそ長編(350ページ)に
しちゃいましょうよ、と唆されたような気がします。
部下の同心が二人も殺され、合鍵作りの老盗が動き出し、
大きな事件が予想された。
鬼平自身も、凄腕の剣客に命を狙われ、闘志満々。
この鬼平シリーズ最大の欠点は「でも、鬼平は絶対やられないんでしょ」
という先が読めてしまう事。
部下が殺される程度じゃなく、最愛の妻や娘が拉致されるなど、
どこまで非道が起こりえるのか、といった展開にはならないのです。
正太郎が現代にて書いていたら、そんなストーリーもあったかもしれませんが、
数十年前では、無理だったのでしょう。